白い風が吹く
阿久悠
「土佐高は甲子園を忘れていません」と
監督からのメッセージ
いやいや
甲子園こそ 土佐を忘れていなかった
縁ある人も 無い人も
全く同じように
自分の心の中の原風景との出会いを
喜んだのだ
何の飾りもない純白のユニホームが
全速力で駈けるだけで
涙ぐみたくなるのは何だろう
純朴とか 懸命とか
真摯とか 健全とか
ついつい片隅に押しやってしまった
言葉の数々を
大急ぎでかき集めながら
何かを再発見したのだろう
そう
かつて少年はこのように
光の中を白い風になって走った
驕ることなく おもねることなく
不必要にお道化ることもなく
時代がどうであれ
流行がどうであれ
少年は少年だと
小さいからだを躍らせたことがあった
たぶん みんな
どこか懐かしく
土佐が十四年ぶりに持って来た
小さい楽園を
見つめているのだろう
全くいい風が吹いた
走る走る
けれんと関係なく 走る 走る
引用文献:甲子園の詩[完全版] -敗れざる君たちへ-
幻戯書房出版